チームの信頼と成果を高める!リーダーのための「聴く力」「問いかける力」実践ガイド
チームの信頼と成果を高める!リーダーのための「聴く力」「問いかける力」実践ガイド
日々のチーム運営において、「メンバーがなかなか本音を話してくれない」「指示待ちになってしまう」「リモートワークでメンバーの状況が見えづらい」といった課題に直面することはありませんでしょうか。チームを率いるリーダーとして、これらの課題を解決し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるためには、特別な理論やツールだけでなく、日々の対話で使える基本的なスキルが非常に重要になります。
その中でも特に磨きたいのが、「聴く力」と「問いかける力」です。これらは、メンバーとの信頼関係を築き、個々のポテンシャルを引き出し、チームを活性化させるための強力な武器となります。
この記事では、チームリーダーの皆様が日々の業務で即座に実践できる、「聴く力」と「問いかける力」の具体的なノウハウと活用方法を、事例を交えてご紹介します。
なぜ、今リーダーに「聴く力」「問いかける力」が求められるのか?
かつてのように、リーダーが一方的に指示を出し、メンバーがそれに従うというスタイルでは、変化の速い現代ビジネスにおいて十分な成果を出すことは難しくなっています。特に、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まり、リモートワークも一般化した環境では、メンバー一人ひとりの自律性や創造性を引き出すことが不可欠です。
「聴く力」と「問いかける力」が重要である理由は、以下の点にあります。
- メンバーのモチベーション向上と主体性の引き出し: メンバーは、一方的に指示されるよりも、自分の意見や考えを聴いてもらい、それに基づいて行動する方が、圧倒的にモチベーション高く主体的に動くことができます。問いかけによって、メンバー自身に考えさせ、課題解決策や行動計画を立てることを促します。
- 信頼関係の構築と心理的安全性の向上: 自分の話を真剣に聴いてもらえるという体験は、メンバーにとって大きな安心感に繋がります。「このリーダーには安心して話せる」という信頼感が生まれ、心理的安全性の高いチーム文化が育まれます。これにより、メンバーは失敗を恐れずに新しいアイデアを出したり、困っている時に助けを求めたりしやすくなります。リモート環境では、意図的なコミュニケーションが不足しがちであるため、より一層この信頼関係が重要になります。
- 情報収集と状況把握の精度向上: 表面的な報告だけでなく、メンバーの抱える悩み、業務のボトルネック、潜在的なリスクなどを、真剣に聴く姿勢と適切な問いかけによって引き出すことができます。これにより、チームの「今」をより正確に把握し、早期に問題に対処することが可能になります。
- コンフリクトの予防と解決: 意見の対立が生じた際も、それぞれのメンバーの話を「聴く」ことから始めます。なぜその意見に至ったのか、背景にある思いや価値観は何かを問いかけることで、お互いの理解を深め、感情的な衝突を避けつつ建設的な対話を進めることができます。
- メンバーの成長支援: メンバーが困難に直面した際、安易に正解を与えるのではなく、「あなたはどうしたい?」「どうすれば乗り越えられそう?」と問いかけることで、メンバー自身が解決策を考え、学びを得る機会を提供します。これは、メンバーの自己解決能力や内省能力を高める上で非常に効果的です。
実践!リーダーのための「聴く力」を磨く具体的なステップ
「聴く」とは、単に相手の話を耳に入れることではありません。相手の話に意識を集中し、相手の気持ちや意図を理解しようと努めるアクティブなプロセスです。ここでは、日々の対話で実践できる具体的な傾聴スキルをご紹介します。
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受容と共感の姿勢を示す:
- 相手が話し始めたら、PCから目を離し、相手の方を向きます。リモートであれば、カメラを見てうなずくなど、視線や表情で関心を示します。
- 相槌を打ち、相手の話に寄り添う姿勢を示します。「はい」「なるほど」といった言葉に加え、うなずきや表情も活用します。
- 相手の感情を察し、「それは大変でしたね」「嬉しいことですね」のように、感情を言葉にして返す(感情の言語化)ことで、相手は「理解してもらえている」と感じやすくなります。
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話を遮らない・結論を急がない:
- 相手が話している途中で、自分の意見やアドバイスを言いたくなっても、ぐっとこらえて最後まで聴きます。
- 沈黙が生じても、すぐに話し始める必要はありません。相手が考えを整理している時間かもしれないので、数秒待ってみましょう。リーダーが沈黙を恐れず待つことで、メンバーは深く考えたり、本当に伝えたいことを話したりできるようになります。
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相手の言葉を繰り返す(ミラーリング・バックトラッキング):
- 相手が言ったことの一部を、そのまま繰り返したり、要約して返したりします。「〇〇ということですね」「つまり△△だとお考えなのですね」
- これにより、リーダーが話を正しく理解しているか確認できると同時に、相手は「自分の話がしっかり聴かれている」と感じます。
【実践例】リモートでの1on1にて
メンバー:「このタスク、思ったより難しくて、どう進めたらいいか悩んでいます…」
リーダー:「悩んでいるんですね。難しいタスクなんですね。(うなずく)具体的に、どのあたりが特に難しいと感じていますか?」
(解説:相手の感情と言葉を受け止め、共感を示しつつ、具体的な状況を聴く問いかけに繋げています。すぐには解決策を示さず、まずは状況理解に努めます。)
実践!リーダーのための「問いかける力」を磨く具体的なステップ
効果的な問いかけは、相手に思考を促し、隠れた課題や可能性を引き出す力があります。質問の種類や目的に応じた問いかけ方を使い分けましょう。
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「クローズド・クエスチョン」と「オープン・クエスチョン」の使い分け:
- クローズド・クエスチョン: 「はい」「いいえ」や短い単語で答えられる質問。「納期は明日ですか?」「資料は完成しましたか?」情報確認や状況把握に有効です。
- オープン・クエスチョン: 相手が自由に考え、言葉で説明する必要がある質問。「このタスクについてどう思いますか?」「具体的にどのような点が課題だと感じていますか?」「次の一歩として、何をしたいですか?」メンバーの考えや感情を引き出し、思考を深めるのに有効です。リーダーシップにおいては、メンバーの主体性や創造性を引き出すために、オープン・クエスチョンを意識的に使うことが非常に重要です。
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効果的な問いかけのポイント:
- 未来志向・解決志向の問い: 問題そのものに焦点を当てるのではなく、「どうすれば改善できるか?」「次に何ができるか?」など、未来や解決策に目を向けさせる問いかけです。
- 例:「なぜ遅れているんだ?」→「どうすれば納期に間に合わせられそうか、一緒に考えられることはある?」
- 具体性を促す問い: 抽象的な話に対して、「具体的には?」「例えば?」と深掘りする問いかけです。
- 例:「このプロジェクトは難しそうです」→「具体的に、どのような点に難しさを感じていますか?」
- 可能性や視点を広げる問い(チャンクアップ): より大きな視点や目的、理想の状態について問いかけます。
- 例:「このタスクを完了させる目的は何ですか?」「もしあらゆる制約がなかったら、どんなことが可能だと思いますか?」
- 焦点を絞り、行動を明確にする問い(チャンクダウン): 具体的な行動や次のステップについて問いかけます。
- 例:「そのために、最初の一歩として何から始めますか?」「いつまでに、何を行いますか?」
- 内省を促す問い(リフレクティブな問い): 経験や行動から何を学んだか、どう感じたかを振り返らせる問いかけです。
- 例:「この経験から、何を学ぶことができましたか?」「その時、どんな気持ちでしたか?」
- 未来志向・解決志向の問い: 問題そのものに焦点を当てるのではなく、「どうすれば改善できるか?」「次に何ができるか?」など、未来や解決策に目を向けさせる問いかけです。
【実践例1】メンバーのモチベーションが低いと感じる時
リーダー:「最近、少し元気がないように見えるけど、何かあった?(オープン・クエスチョン)」 メンバー:「特に何も…でも、この業務、面白くなくて…」 リーダー:「そうか、面白くないと感じているんですね。(傾聴)具体的に、どんな部分が面白くないと感じるんだろう?(具体性を促すオープン・クエスチョン)」 メンバー:「ルーチンワークが多くて、自分の成長に繋がってる気がしなくて。」 リーダー:「なるほど。じゃあ、この業務の中で、もし何か一つ変えられるとしたら、どんなことだったら少し面白くできそう?(仮定の問い、未来志向)」 メンバー:「うーん…データを集計するだけでなく、分析まで自分でやって、結果をチームに報告する、とかですかね。」 リーダー:「お!それ良いね!もしそれができるとしたら、どんなスキルが磨けそう?(未来志向、チャンクアップ)」 メンバー:「分析力とか、プレゼン力とか…」 リーダー:「素晴らしい。じゃあ、まずそのデータ分析の部分を少し任せてみることはできるか、一緒に考えてみようか。そのためには、まず何から始められそう?(解決志向、チャンクダウン)」
【実践例2】リモートチームでの意見対立
オンライン会議で、AさんとBさんの意見が対立。 リーダー:「お二人とも、貴重なご意見ありがとうございます。Aさんは〇〇という点に懸念があり、Bさんは△△という効果を期待されている、ということですね。(ミラーリング・要約)」 リーダー:「Aさん、その懸念は、具体的にどのような経験に基づいていますか?もしその懸念を解消できるとしたら、どんな条件が必要だと考えられますか?(具体性を促す、解決志向の問い)」 リーダー:「Bさん、△△の効果について、もう少し詳しくお伺いできますか?どのようなデータや事例があって、そうお考えになったのでしょう?(具体性を促す、根拠を問う)」 リーダー:「ありがとうございます。お二人の話から、目指したい方向性は共通しているようですが、懸念点や期待する効果が違うようですね。この状況を踏まえて、次にどのような点について話し合うと、皆が納得できる案に近づけそうですか?(内省を促す、未来志向の問い)」
日々のチーム運営で「聴く力」「問いかける力」を活かすコツ
これらのスキルは、1on1ミーティングだけでなく、日常的なコミュニケーション、チームミーティング、フィードバック、コンフリクト発生時など、あらゆる場面で活用できます。
- 意図的に対話の機会を設ける: 短時間でも良いので、業務の話だけでなく、メンバーの状況や関心事について話す時間を作ります。リモートなら、定例会議の冒頭に「チェックイン」(最近の出来事や気分などを簡単に共有する時間)を設けるのも有効です。
- フィードバックの際に活用する: フィードバックは一方的に伝えるだけでなく、まず相手に自己評価を問いかけ(「今回のプロジェクト、自己評価すると何点くらい?」「特に頑張った点、難しかった点は?」)、その後にリーダーからのフィードバックを伝えます。受け止め方を確認し、「どう活かせそう?」と次に繋がる問いかけを行います。
- リモート環境での工夫:
- オンライン会議では、相槌やうなずきをいつもより少し大きめに、表情豊かに行うことを意識します。
- チャットで質問する際も、「〇〇についてどう思いますか?」「△△について、良いアイデアがあれば教えてください!」のように、相手に考えさせるオープンな問いかけを混ぜます。
- 短いビデオメッセージで、表情と共に問いかけを送ることも、文字だけでは伝わりにくいニュアンスを伝えるのに役立ちます。
リーダー自身の心構え
「聴く力」「問いかける力」を磨く上で、リーダー自身の心構えも重要です。
- 相手への敬意を持つ: メンバー一人ひとりの経験や視点には価値があるという敬意を持ち、対話に臨みます。
- 自分のフィルターや先入観に気づく: 自分の経験や価値観を通して相手の話を判断してしまうことがあります。まずは「そういう考え方もあるんだな」と受け止める意識を持ちましょう。
- 完璧を目指さず、まずは実践: 最初から完璧にできる必要はありません。今日から一つ、意識して「聴き方」や「問いかけ方」を変えてみましょう。
- 自己開示もバランスよく: リーダー自身も自分の考えや感情を適度に自己開示することで、メンバーは安心して自分の話をしやすくなります。ただし、メンバーの話を遮ってリーダーの話ばかりにならないよう注意が必要です。
まとめ
「聴く力」と「問いかける力」は、特別な能力ではなく、日々の意識と実践で磨くことができるスキルです。これらのスキルを向上させることは、メンバーとの信頼関係を深め、リモートワーク下でもチームの一体感を育み、メンバーの主体性や潜在能力を引き出し、結果としてチーム全体のパフォーマンス向上に繋がります。
今日からぜひ、日々のメンバーとの対話の中で、「どう聴くか」「どう問いかけるか」を少し意識してみてください。小さな変化の積み重ねが、きっとチームの大きな成長と成果に繋がるはずです。