チームの「すごい!」を見える化:ベテランの暗黙知を形式知に変え、チーム力底上げを叶える実践ガイド
チームの「すごい!」知見、特定のメンバーに眠っていませんか?
日々の業務で、特定のメンバーだけが驚くほどスムーズに問題を解決したり、他のメンバーにはない独自のノウハウを持っていたりすることはありませんか?それは、その人が長年の経験を通じて培ってきた「暗黙知」である可能性が高いです。
このような「すごい!」知見が個人の頭の中に留まっているだけでは、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がりにくく、そのメンバーが不在になった際に業務が滞るリスクも抱えます。特にリモートワーク環境下では、オフィスで自然に交わされていたちょっとした相談やアドバイスの機会が減り、暗黙知が共有されにくい状況が生まれています。
チーム全体の底上げを図り、誰もが「すごい!」パフォーマンスを発揮できる状態を作るためには、これらの暗黙知を「形式知」(誰もが理解・共有できる形)に変え、チームの共通資産とすることが非常に重要です。
この記事では、チームリーダーとして、メンバーの持つ貴重な暗黙知を見つけ出し、形式知化し、チーム全体で活用するための具体的なステップと実践的なアプローチをご紹介します。
暗黙知とは何か?なぜ形式知化が必要なのでしょうか?
まず、暗黙知とは何でしょうか。これは、言葉や文字では表現しにくい、個人的な経験や感覚、勘に基づく知識のことです。例えば、「この顧客は、こういう話し方をすると反応が良い」「この状況では、この指標を先に確認する」といった、マニュアルには書かれていないけれど成果に直結するようなノウハウがこれにあたります。
一方、形式知は、マニュアルや手順書、データ、図解など、言語や図で表現され、共有しやすい知識です。
なぜ、この暗黙知を形式知に変える必要があるのでしょうか?
主な理由は以下の通りです。
- 属人化の解消: 特定のメンバーに業務が集中したり、その人がいないと業務が回らない状況を防ぎます。
- チーム全体のスキルアップ: ベテランのノウハウを共有することで、若手や経験の浅いメンバーの成長を加速させます。
- 業務品質の安定化: 経験によるブレを減らし、一定の品質で業務を遂行できるようになります。
- 教育・オンボーディングの効率化: 新しいメンバーが早くチームに馴染み、成果を出せるようになります。
- イノベーションの促進: 形式知として共有されたノウハウが、新たなアイデアや改善のヒントになることがあります。
特に多様な働き方(リモート、ハイブリッドなど)が混在するチームでは、意図的に情報共有の仕組みを作らなければ、暗黙知はますます個人の中に閉じこもりがちになります。形式知化は、物理的な距離があっても知識を共有し、チームの一体感を保つための重要な手段とも言えるでしょう。
チームの暗黙知を見つけ出す具体的なステップ
では、チームに埋もれている暗黙知をどうやって見つけ出せば良いのでしょうか。以下のステップで進めてみましょう。
ステップ1:目的設定と対象領域の特定
まず、「なぜ形式知化したいのか?」「誰の、どんな暗黙知を形式知化したいのか?」を明確にしましょう。
- 例:
- 「新規顧客への初回ヒアリングの質を上げたいので、トップパフォーマーのヒアリング時の『質問の意図』や『相手の反応を見ながら次にどう展開するか』といった暗黙知を見える化したい」
- 「ある特定のシステムトラブル発生時の、マニュアルに載っていない『切り分けの勘所』を共有したい」
- 「特定のツールを使った、誰も知らない『効率的なショートカットや機能』を集めたい」
このように、具体的な業務課題と紐づけることで、形式知化の対象が絞られ、メンバーも協力しやすくなります。
ステップ2:暗黙知を持つメンバーへのアプローチ
対象となるメンバーに、形式知化の目的と協力をお願いしたい旨を丁寧に伝えましょう。「あなたの持っている貴重な経験や知見をチーム全体に活かしたい」「あなたの『すごい!』ノウハウをみんなの力にしたい」というポジティブなメッセージが効果的です。
協力をお願いする際は、相手に過度な負担がかからないよう配慮し、心理的安全性を確保することが重要です。「これは評価のためではない」「知見を共有することで、あなた自身の負担も減る可能性がある」といった安心感を与えることも大切です。
ステップ3:暗黙知を引き出す具体的な方法と質問例
暗黙知は無意識のうちに行われていることも多いため、インタビュー形式で本人に語ってもらったり、実際に作業をしているところを見せてもらったりするのが効果的です。
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インタビュー:
- 「その業務で一番難しい点は何ですか?それをどう乗り越えていますか?」
- 「マニュアル通りに進めても上手くいかない時、他にどんなことを試しますか?」
- 「以前、失敗した経験があれば教えてください。そこから何を学びましたか?」
- 「その判断は、何に基づいて行っていますか?何かサインを見ているのですか?」
- 「このスキルやノウハウは、どうやって身につけたのですか?」
- 「もし新しくこの業務を担当する人にアドバイスするとしたら、何を伝えますか?」
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ペアワーク・観察:
- ベテランメンバーと他のメンバーが一緒に業務を行う様子を観察し、どのようなコミュニケーションや判断が行われているかを記録します。
- 可能であれば、業務中の画面を共有・録画してもらい、後で見返しながら本人に解説してもらいます。
重要なのは、「なぜそうするのか?」という理由や、「どう感じているか」「何を考えているか」といった、表面的な行動の裏にある思考や判断基準を聞き出すことです。
引き出した暗黙知を形式知に変える具体的な方法とツール活用例
引き出した暗黙知は、そのままでは共有しきれません。多くの人が理解・活用できる形式知に加工する必要があります。
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ドキュメント化:
- マニュアル・手順書の加筆: 既存のマニュアルに、具体的な判断基準や「〇〇の場合は△△の兆候を見逃さない」といったコツを追記します。
- Wiki/FAQの作成: ConfluenceやNotion、SharePointなどのツールを使って、業務ごとのノウハウ集やよくある質問とその回答をまとめます。検索性が高く、チーム全体で編集・更新しやすいのが利点です。
- ケーススタディ集: 成功事例や失敗事例、特殊なケースとその対応方法を具体的な状況描写とともに記述します。
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図解化・テンプレート化:
- 複雑な判断フローや業務の流れをフローチャートや図で表現します。
- 繰り返し使うメールや報告書のテンプレートに、作成時の注意点やポイントを付記します。
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動画マニュアル作成:
- 特にPC操作やツールの使い方など、視覚的な情報が重要な場合は、画面録画ツール(Zoom, Teams, Loomなど)を使って操作手順を録画し、ナレーションやテロップで補足説明を加えます。短い動画は、隙間時間でも確認しやすいため効果的です。
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勉強会・ワークショップ開催:
- 形式知化した内容を発表したり、ベテランメンバーが講師となって具体的なノウハウをデモンストレーションしたりする場を設けます。質疑応答を通じて、さらに深い部分の暗黙知が引き出されることもあります。
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チェックリスト化:
- 特定の業務における確認事項や判断基準をチェックリスト形式にすることで、誰でも抜け漏れなく業務を遂行できるようになります。
ツール活用例:
- 情報共有ツール (Confluence, Notion, SharePoint): Wikiやデータベース機能を使って、ナレッジベースを構築します。「〇〇業務ナレッジ」「トラブルシューティングFAQ」などのページを作成し、情報を集約します。
- コミュニケーションツール (Slack, Teams): 特定のチャンネルで「〇〇業務の知恵袋」のようなQ&Aチャンネルを作り、そこで交わされた質問と回答を定期的にWikiに転記・整理します。
- プロジェクト管理ツール (Trello, Asana): 各タスクの説明欄に、そのタスクを効率的に進めるためのヒントや過去の事例へのリンクを追記しておきます。
- 録画ツール (Zoom, Teams, Loom): メンバーに簡単な操作説明やノウハウの実演を録画してもらい、共有フォルダや情報共有ツールにアップロードします。
形式知化する際は、ターゲットとなるメンバー(誰がこの情報を使うのか)を意識し、その人たちが理解しやすく、アクセスしやすい形式を選ぶことが重要です。
形式知をチームに浸透させ、活用を促す仕組み
形式知は、作っただけでは意味がありません。チームメンバーが実際に活用して初めて価値が生まれます。
- 共有場所の一元化と周知徹底: 作成した形式知は、アクセスしやすい一箇所にまとめ、その場所をチーム全体にしっかりと周知します。「〇〇に関する情報は、このWikiを見れば全て見つかる」という状態を目指します。
- 定期的な更新とメンテナンス: 業務プロセスやツールは常に変化します。形式知も陳腐化しないよう、定期的に内容を見直して最新の状態に保つ仕組み(担当者を決める、更新日を明記する、レビュー会を行うなど)が必要です。
- 形式知を使った成功事例の共有: 「あのWikiに書いてあった通りにやったら、この問題が解決できた!」「動画マニュアルを見ながらやったら、初めての業務でもスムーズにできた!」といった成功事例をチーム内で積極的に共有・称賛します。
- オンボーディングでの活用: 新しいメンバーが入った際に、形式知化されたナレッジベースをOJTの中心ツールとして活用します。これにより、教える側の負担も軽減されます。
- リーダー自身の率先活用: リーダー自身が日々の業務で形式知を参照し、「これはWikiに書いてあった通りですね」「あの動画、参考になりますよ」といった声かけを行うことで、活用を促進します。
- 気軽に質問・提案できる文化醸成: 形式知化された情報を見て分からないことがあれば、誰にでも気軽に質問できる雰囲気を作ります。また、「ここの情報、もっと分かりやすくできませんか?」「私のやり方も追加していいですか?」といった改善提案を歓迎する姿勢を示しましょう。
形式知化を進める上での注意点とリーダーの役割
形式知化は、魔法ではありません。いくつかの注意点を理解しておく必要があります。
- 形式知化が目的化しない: あくまでチームの成果向上や課題解決のための手段です。何のために形式知化するのかを忘れず、効果を測りながら進めましょう。
- メンバーの負担に配慮: 形式知化作業は、本業とは別のタスクになります。特定のメンバーに負担が偏らないよう、チーム全体で協力したり、業務時間を確保したりする配慮が必要です。
- 「完璧」を目指さない: 最初から全てを網羅しようとせず、効果の見込みが高い領域から小さく始めてみましょう。改善を重ねていくプロセスと捉えることが大切です。
- 形式知化を促す動機付け: 知見を共有したメンバーや、形式知を積極的に活用したメンバーを正当に評価したり、チーム内で称賛したりすることで、ポジティブな循環を生み出せます。
- 形式知は「たたき台」と捉える: 形式知はあくまで標準的な方法や基本的な知識です。状況に応じて応用したり、さらに良い方法を模索したりする余地があることをメンバーに伝え、思考停止を招かないように注意しましょう。
チームリーダーは、形式知化の旗振り役として、目的を明確にし、メンバーに協力を促し、必要なリソース(時間、ツールなど)を確保し、形式知が活用される文化を醸成する役割を担います。メンバーの「すごい!」知見を引き出し、それをチームの共有資産に変えることは、リーダーにとって最もやりがいのある挑戦の一つとなるでしょう。
まとめ:チームの知見を共有資産に、そしてさらなる成長へ
チームの暗黙知を形式知に変える取り組みは、単なるドキュメント作成ではありません。それは、チームメンバー一人ひとりの経験や知見を尊重し、それをチーム全体の力として活かしていくための、継続的な「学び合い」のプロセスです。
このプロセスを通じて、チームは属人化のリスクを減らし、新メンバーの受け入れをスムーズにし、何よりもメンバー同士が互いの知識やスキルから学び合い、共に成長していく文化を育むことができます。
ぜひ、あなたのチームに眠っている「すごい!」知見を見つけ出すことから始めてみてください。そして、その知見を形式知に変え、チーム全員で活用できる仕組みを少しずつでも構築していきましょう。きっと、チーム全体のパフォーマンスと一体感に、確かな変化が現れるはずです。